お寺へとつづく山道をのぼり、
お日様が西の空へゆっくりしずんでいくのを見送った後、
本堂のえん側にこしを下ろして、お月様がのぼるのを待ちました。
あたりがうっすらと暗くなり、山の姿が空にとけはじめた頃、
雲の切れ間から、ぼんやりとしたお月様が姿をあらわしました。
しだいにお月様のりんかくがはっきりしてきて、
やがて赤みをおびた黄色に変わり、
お庭の向こうの山に寄りそうように、ゆっくりと空にのぼっていきます。
とちゅう、あつい雲にすっぽりかくれてしまいましたが、
ふたたびあらわれたお月様は、白く、かがやいていました。
いつしか本堂のあかりは消され、月明かりに照らされたお庭と、
白いへいの向こうの木々の影だけが浮かび上がってきます。
そこに、やさしくひびいてくるのは、虫の声。
こんなに長い時間、お月様だけに心をうばわれていたのは
はじめてのことです。
〈月の寺について〉
ここ「正伝寺(しょうでんじ)」は、
京の人たちには「月の寺」と呼ばれることが多いそうです。
なぜなら、このお寺の庭は、
月を美しく見せるためだけに作られているからです。
へいの高さも、木の位置も、砂の色も、
お月様が決めたなんて、すてきですよね!